Mについて

Mの紹介/とある中核市の社会福祉事務所の就労支援員。今年で13年目。今まで400人以上の人の就労支援に携わっている。

 Sさんは、奇妙な男性だった。初回面談に太めのアイシャドーをして来所。気負いは半端ないように思われた。Mには、Sさんが精神疾患の持ち主だと思われたが、当の本人に病状の自覚はなかった。もちろん、通院はしていない。

 面談の約束の時間に来所しないので、Sさんの携帯電話に連絡を入れたところ、「今、玄関の扉を大男がドンドンと蹴り上げるので、怖くて外に出られない」と緊迫した様子で説明する。Mは、「それなら仕方がないですね」と言い、次回の面談日を決める。
 次の面談日も同じことが繰り返された。なんとそんなやり取りが1年もの間続いたのである。

 1年後、ようやくSさんは約束の面談日に来所できるようになり、詳しい生活の実態が明らかになった。昼夜逆転の生活。食事は筋トレを補うためにプロテインが入ったビスケットばかり食べ、珈琲と煙草が手放せなかった。
趣味は漫画を描くこと。手書きで書くので、いつも手が黒インクで汚れていた。漫画の公募に応募することもあった。

 そんなSさんに転機が訪れる。Sさんはパソコンで漫画を描きたい気持ちになった。パソコンの基礎が学べる職業訓練を受講。ワード・エクセルをマスターすることはできなかったが、規則正しい生活を送る習慣が身につき、就労意欲が湧いてきた。
 同じ働くなら、賃金が割高になる夜間を希望し、期間限定の夜間勤務に就く。契約期間は2か月。契約の更新にはならなかったが、就職をした段階でMの支援は終了。トータルで支援期間は2年余り。

 3年後、担当のケースワーカーから悲しい報告。Sさんは自宅で熱中症になり、死亡。享年57歳。余りにも短い生涯と思われる。Mはいたたまれない気持ちになった。