【第19話】歯がゆい支援もある

Mの紹介/とある中核市の社会福祉事務所の就労支援員。今年で13年目。今まで400人以上の人の就労支援に携わっている。
50代後半のJさんは、元長距離トラックの運転手。左腕が肩より上にあがらない。
自転車に乗れるが、10mも歩けば、右足がしびれて動けなくなる状態で、就労支援の相談に訪れた。
椎間板ヘルニアを患い、左肩の靭帯は部分的に断裂。整形外科に通院。主治医は手術よりもリハビリを推奨。
就労意欲はそれほど高くなかった。支援開始の1年間は、上記の症状を傾聴。一番の悩みは、夜寝るときに右足が痺れて何度も目を覚ます。熟睡ができないとの訴え。
食は細く、自炊はしていたが、ざるそば・ソーメン等の麵類ばかりを食べていた。
そんなJさんであるが、母親の死をきっかけに一念発起。就労意欲が俄然湧いてきた。不眠は治まり、自炊では肉じゃが・焼き魚を作るまでに変化していった。リハビリの成果もあり、自転車に1時間は乗れるまで体力が向上。
高齢者施設のデイサービスの送迎に応募し、採用。2か月間が過ぎた頃に無理が祟ったのか、治まっていた症状が悪化。仕事が続けられなくなり、退職を余儀なくされた。
焦ったJさんは主治医にかけより、無理やり手術を乞い、手術を決行。予後はよくなかった。症状はさらに悪化。落ち込んだJさんは引きこもり、連絡が取れなくなった。
このケースでⅯは就労支援員として何ができたであろうか。主治医に相談してJさんの手術を止めるべきだったろうか。止めても一途なJさんは手術をしたと思われる。
Mの職域では来所が前提なので、Jさん宅を訪問する支援はできない。携帯電話がつながらないのであれば、せいぜい手紙を書くことぐらいしか手段がない。
Jさんからの返事はない。こんな状態で支援を終結させたくないのがMの心情であるが、なんとも歯がゆい支援であった。


