【第3話】「Mの「自己一致」

Mはカール・ロジャーズ先生を尊敬している。今回はM流の「自己一致」について話す。

Mの考えでは、相談者が望む心地良い心の距離感を保つのが「無条件の肯定的受容」。相談者の行動変容に影響を及ぼすかもしれないのが「共感的理解」。「自己一致」のベクトルは、カウンセラーの内側に向けられる。Mは自分の心がベストな状態に保てているかを確認するために、月に1度カウンセリングを受けている。自分の心を俯瞰できる視野を持ち、自分の感情の癖も自己受容するために。

自分では心の状態がベストに保っているつもりでも、自ずとカウンセラーの感情の癖が相談者の気持ち・理性をかき乱し、役に立つカウンセリングにならない場合がある。簡単に言えば、この人と話をしても話が通じないなぁと相談者が感じてしまえば、相談者とのラポールの形成はそこで終了。最悪の場合は怒って帰ってしまう。こんな経験を恥ずかしながらMはしたことがある。 

生活保護を受給し続けるためのアリバイづくりに来所した相談者に、より良い人生について、Mと一緒に考える時間がこの面談であると説明するも、一向に心を開いてもらえない場合もある。親に連れられ、半ば嫌々来所した引きこもりの相談者と会話をしたいと思い、天気の話や好きと聞いていたアニメの話を30分以上したが、まったく何の反応もいただけなかったことがあった。

自分のスキルでは歯が立たないと途方に暮れた面談後に、Mは懸命に「自己一致」に立ち戻ろうと試みる。いったい自分に何が足りなかったのかと反省する。何故なら、心を開かない相談者ほど、心理的支援を受けてほしい相談者であることをMは知っているから。

Mにとっての「自己一致」とは、自分のスキル不足を励ます拠り所であり、永遠のテーマである。