【第12話】子の縁は切っても切れない?

Mの紹介/とある中核市の社会福祉事務所の就労支援員。今年で13年目。今まで400人以上の人の就労支援に携わっている。

Dさんは高校卒業し調理関係の専門学校に進学。卒業後は飲食店に就職。キャベツを切り過ぎて両手首を痛めて退職。その後、IT関係の専門学校に入学。卒業後はプログラマーを目指すが、短期間の就職退職を繰り返し、手持ち金が底をつき、生活保護受給者になった20代後半の男性。特に精神疾患等の障害はないが、仮病を使って面談をキャンセルすることが多かった。

支援の最初の2年間は、昼夜逆転の生活や自暴自棄な振る舞いをするDさんを励まし、寄り添う支援であった。

希望職種はプログラマー。技能不足で採用に至らない。ある時から、何故か東京の企業に頻繁に応募するようになった。夜間バス等の交通費は生活保護費から支給されないにもかかわらず。理由は関東に住む母親に会いに行っていたようだ。

その母親の援助で車の運転免許を取得。会計ソフトを販売する会社に就職できたが、3か月で退職。理由はブラック企業だったと言う。

続けてITの知識を活かす営業職に就くも残業代を支払ってもらえなかったり、不運は続くが、運転免許取得の効果はあったようだ。

疎遠になっていた父親から、息子(義弟)の家庭教師を依頼され、父親との交流が復活。父親の紹介で就職。就労自立廃止。

両親はDさんが高校生のときに離婚。母親に引き取られたが、母親はDさんを大阪に残し、関東に住む恋人のもとへ移住。父親の姉との交流は継続。間接的にDさんの動向を父親は把握していたようだ。

生活に困窮したDさんは意を決して離れ離れになった両親に助けを求めたと思われる。結果的にいったんは縁を切った息子を両親が救った事例。 MはDさんの事例から親の子への愛情は支援員の預かりしらないところでしっかりとあるものと知った次第である。