【第15話】就労支援の一つのありようとは

Mの紹介/とある中核市の社会福祉事務所の就労支援員。今年で13年目。今まで400人以上の人の就労支援に携わっている。

Aさんは生活保護受給者。特徴が3つあった。一つは母親譲りという難病。体中にできものができる。心臓にできれば致命傷になる。母親はその難病で死亡したと話していた。

もう一つはデザイナー志望。Aさんはバイク好き。バイク仲間にデザイナーがいて、その人の影響で見よう見まねにグラフィックのソフトを学んだ。バイクのロゴマークの作成で小遣い稼ぎをしたこともある。支援中も画板をぶら下げて来所。これから商談に行くと話していたが、商談が成立した試しはなかった。

この二つの特徴が災いしてか、寝るのを忘れてロゴマーク作りに没頭。昼夜逆転の生活を送ったことがあった。担当CWがAさん宅を訪問すれども、Aさんに会えない。会えても寝ぼけていることが度々。

三つ目はモノづくりへのこだわり。よく言えば職人気質。町工場を転々としていた。本当は気の優しい気性だとMは感じていたが、融通が利かない。40代半ばで生活に行き詰まり生活保護受給者。

そんなAさんだから、調子がいいときは約束の時間に来所できたが、ひとたび調子が悪くなると約束を守れなかった。ようやく電話がつながり次回の面談予約を取り付けても無断キャンセルすることも多々あった。それでも支援は根気よく続けた。

Aさんが気に入るモノづくりの求人票はなかった。Mは町工場が多いエリアをバイクで探索することを提案。興味を示したAさんは探索を開始。1件の金属加工の部品工場を見つけた。最初は手伝い程度の勤務時間。ようやく生活保護を脱せられる程度の賃金を得ることができるようになった。

その間、AさんはMに数回近況報告をしてくれた。仕事中にケガをしたAさんを社長が病院へ搬送。親切にしてもらい、感激したという話が印象に残っている。 就労支援の仕事は対象者の生き様に寄り添い、暖かく見守るのが仕事。結果は自ずとついてくるとMは思っている。