【第7話】職業訓練/中高年編
Mの紹介/とある中核市の社会福祉事務所の就労支援員。今年で13年目。今まで400人以上の人の就労支援に携わっている。
64歳のFさんは、高校を中退し、親方である兄の勧めるまま、職業人生を歩んできた。最初は建売住宅の大工。次に型枠大工。最後は公園の営繕。最後の仕事で右足を怪我。少しだが右足を引きずるようにしか歩けなくなった。生活に困り、生活保護受給者。
60代で未経験でもできる仕事は、警備もしくは清掃。最近は人手不足の影響もあり、倉庫内作業の仕事に就けることがまれにある。 Fさんは、警備・清掃・倉庫内作業の仕事はやりたくないと意思表示。職業訓練「ビル設備サービス科」を勧めたところ、受講することになった。訓練期間は6か月。この訓練では2級ボイラー技士・第二種電気工事士等の資格が取得できる可能性がある。
Fさんは受講。受講中に月に1度面談。工業高校の出身でもないFさんは、授業についていけないと愚痴をこぼすものの、約50年ぶりの学生生活はおもしろいと語っていた。案の定資格は1つも取得できなかったが、訓練校の就職支援員さんの支援で大学に出向するビルメンテナンスの会社に就職。Fさんはとても喜んでいた。採用になった決め手は二つ。一つ目は大学の教室の机等の破損の修繕は別の業者に委託していたが、Fさんの過去の仕事の経験から難なくできる。外部に委託する必要がなくなり、大学にとっては経費削減。
二つ目はFさんの人柄。ぶっきらぼうで呑気そうに見えるところもあるが、朗らかで優しそうな印象を受ける。採用になった会社は一部上場企業。Fさんは面接用のスーツは持っていない。Mの事務所に面接用のスーツを貸出すサービスがあり、それを利用。なんと入社式にも貸出を希望。
無事に入社式は終わったようで、後日宅配便で返却。何ともFさんらしい。もちろん生活保護は就労自立で卒業。