【第11話】共感だけでは、人は救えない

Mの紹介/とある中核市の社会福祉事務所の就労支援員。今年で13年目。今まで400人以上の人の就労支援に携わっている。

Bさんの就労支援はユニークであった。就労支援の回数は4回。1回あたり3か月から6か月。Bさんは、支援開始の初日に次の就労先を決めていた。ならば、就労支援をする必要はないと思われるが、担当のケースワーカーからはすぐ辞めるのでその後の就労支援をしてほしいとの依頼。 

案の定、Bさんは2週間後の2回目の支援までに退職。退職理由は自分の能力を認めてもらえない。上司や同僚とはそりが合わない。失業しても落ち込まないBさんは2,3社応募すれば、採用になる。支援内容は定着支援。仕事ぶり・職場の人間関係の悩みについて共感。

Bさんは精神疾患の病識はなく、うつ病で自殺未遂をした姉のことをよく話していた。MがBさんの精神疾患を疑った事例は数限りない。毎日市販の鎮痛剤を服薬。通勤は自転車で1時間以上離れた勤務地に行くとき、途中のスーパーで買った特価の菓子パンを頬張りながら「ゾーンに入った」。だから遅刻せずに出勤できた。電話支援では、自宅のアパートの窓ガラスにへばりついているヤモリは1年半前に居たヤモリと同じ。そんな話を1時間ぐらいする。一通り話し終えると、一言「ありがとうございました」と言い支援を終了。

2か月間退職せずに就労が継続すれば、生活保護は就労自立廃止。その2か月後に生活が破綻。再び生活保護受給者。この繰り返しを4回。Bさんは20年以上倉庫内の商品管理の仕事に従事。その経験を評価され、採用されてきたが、アマゾン等のコンピュータで商品棚を制御する時代が来ると、Bさんのスキルは過去のもの。

Bさんは自殺未遂で入院。退院後に「地獄を味わいました」と報告に来てくれたのが、最後の関りとなった。

共感だけでは、人は救えない。Bさんから教わったことである。