【第9話】もう1度会いたい利用者

Mの紹介/とある中核市の社会福祉事務所の就労支援員。今年で13年目。今まで400人以上の人の就労支援に携わっている。

30代前半のCさんはコロナ禍前に来所。公的機関での就労支援サービスの利用は今回で3回目。1回目は二十歳の成人式後に父親に連れられ、若者サポートステーションを利用。2回目は20代半ばで父が病気で倒れ、失業したことがきっかけで、わかものハローワークを利用。いずれも就職に至らなかった。3回目は母が重い病にかかり、当センターの就労支援サービスを利用。

Cさんのように親が重い病気・死去した直後に、「このままではいけない」と自らを奮い立たせる利用者にMは数人遭遇。皆さん優しい人ばかり。Cさんは小学3年生で虐めにあった。それ以来小学校・中学校は不登校。高校へは進学しなかった。自室でゲームをして過ごす日々を送っている。

Cさんは、戦闘ものではなく、村づくり・世界を旅するゲームが好きなようだ。話しぶりから、大人しい温和な性格が伝わってきた。 そんなCさんと意気投合したものがある。アドラーの「嫌われる勇気」の読書会。続編の「幸せになる勇気」まで愛読。回を重ねるうちに、Cさんは自分が救われたと述べた。

ある時、MはCさんに自分のことを動物に例えるとどんな動物かと問うと、Cさんはトカゲと言う。そのトカゲは何処にいるかと問うと、川の堤防を這っている。どんなように這っているかと問うと、「ゆっくりだが力強く這っている」と言う。

MはCさんが人生の希望を見出したように感じていた。手応えのある支援であったが、終結は突然来た。新型コロナの爆発的な流行。

センターには不特定多数の人が往来。もし、自分がコロナウイルスを自宅に持込み母が罹患者になれば、取り返しがつかない。だから、来所できないと言う。

その後、Cさんは来所せず。電話連絡も取れなくなった。ある日電話に出られないCさんに代わり、父親が電話口で「息子は元の息子に戻りました。支援はもう受けられない」と言われた。

Mは今でもCさんに謝り、支援を再開したいと願っている。